15mつづく曲面の壁が広がりをもたらし、小さくてものびやかな暮らしをつくる。
(写真は下にあります↓)
細く見通しの効かない道をすり抜けるようにして敷地へ向かう。東京の住宅地ではよくある風景である。細かく地割された住宅が密集する地域に、この住宅は建つ。
しかし、と思う。ここに来る間に乗った、ゆっくりと多摩川まで行く電車。敷地東側の後ろにみえている大学の豊かな森。途中のやたらと段差のある畑。建主が子供のころに遊んだという、少し離れたところの野川段丘。これらのイメージを歩きながら反芻しているうちに、この密集する宅地造成地が元は河川によって自然に作られた扇状地で、いわゆる武蔵野台地の端っこだということが体感されてくる。そもそも、東京の半分は本来そういう地形によって成り立っているはずだ。そう考えると、頭の中に大きな東京の地形図がいきなり立ち上がってくる。今立っている場所を、倍率を拡大した目線で上空から地図の中に確認することができてくる。その瞬間,東京という大きな構造の中にいる実感がわく。ようやく自分のいる場所と、外の世界がひと続きになる。
敷地は東側で接道し、南側や西側には境界線に沿うように隣家が建つ。北側は広めの駐車場だが、背後に控えるアパートからの視線がまとめてこちらを向いている。敷地から外に対しての視線に方向を持たせるとすれば、東側の緑と南側の隣地駐車場上部の空の方向しかない。その2方向を軸に、敷地をL型の建物とそれに囲われた四角い庭とに分ける。そしてL型ボリュームの角を丸くし、更に外周側を、この規模の住宅で はなかなか得がたい15mという一続きの長さの壁で構成してみる。
曲率の異なったこの二枚の壁に挟まれた チューブ状の内部空間は、同じ芯を中心にした曲率壁による空間とは異なり、求心性をもたず、移動に応じて微妙な変化率で広がっていく空間となる。曲面壁は、それが長い分、外の光の傾斜が映り込みやすい。微妙に長く尾を引く光のグラデーションが現われる。そして、それが時間の経過ともに緩やかな移ろいを見せるのである。
反対側の端が見通せないL型のチューブの中のような室内を、奥から射してくる光に沿って移動する。空間の拡がりの変化と、徐々に明るくなる感じが面白い。その奥からの光は、突き当たりの窓から入っているのが見えてくる。突き当りまで行ったら、チューブ体験は終わりだ。しかしその窓からは、来るとき感じた武蔵野台地の青空が、住宅地の上に拡がっている。
(押尾章治/新建築「住宅特集」200604)
[写真は全て小林浩志/SPIRAL撮影]
外観全景。ガルバリウム鋼板を上から下まで一枚もので張っている。
内観(植田実さんとの対談時撮影)>植田実さんの講評
所在地/東京都小金井市
主要用途/専用住宅
家族構成/夫婦+子供1人
主体構造・構法木造
規模 地上2階
敷地面積 113.00m2
建築面積 44.81m2(建蔽率39.65% 許容40%)
延床面積 89.62m2(容積率79.30% 許容80%)
地域地区 第1種低層住居専用地域 第1種高度地区