西刑部の家

「西刑部I邸」設計主旨

敷地は宇都宮市の郊外に位置する。北関東の主要幹線道路である国道4号線と、日光から流れる鬼怒川に挟まれた緑豊かな場所である。ここに住まわれる施主夫婦と老母は、元々は宇都宮の中心市街地に住んでいたが、区画整理事業に伴う代替地としてこの土地を取得した。隣接する平地林と道路反対側の隣家の木立に挟まれた立地がとても気に入り、複数の候補からこの土地をえらんだそうである。

その施主の要望としては、散歩に通うことになる林が身近に感じられる落ち着いた間取りであること、それから来客の多さに対応できるLDKや外部デッキなどが求められた。特に外部デッキについては、かなり積極的に食事や憩い等に使われると伺い、建物内部から外部への一体的な連続感が求められた。

平面計画としては、道路側に車寄せと駐車場のスペースをとり、そこから北側に和室、西側にLDKと間取りを伸ばしている。南北に長い敷地を、コノ字型の建物ボリュームで北側を縁取りしたように配置し、中央に南に向かって広がる長い中庭を残した計画である。特徴的なのは、その中庭の中央を横切るように、道路側の車寄せから居間の西側まで、内外に渡り、デッキが貫通して伸びていることである。この外部デッキが、魅力的な平地林に対する楽しみと、多い来客への対応という機能を同時に満たすのである。道路側の車寄せの格子戸を開けると、ひとつのフレームの中に、向こう側の平地林を背景にした家人の生活風景が飛び込んでくる。と同時に外来者の訪れも、開いた格子戸の向こうに道路側の木立を背景に確認することが出来る。つまり家の内にいる人も外にいる人も、木立を背景にしたひとつの佇まいの中で向き合える関係になるのである。家のどこからでも見えるデッキは、こうして敷地の内部にある生活と外部の社会との関係を、節度あるものに変える役割を果たし、本来的な意味での落ち着いた暮らしを実現するのである。

押尾章治

 

竣工年:2006年
所在地:栃木県宇都宮市西刑部町
家族構成:夫婦
主要用途:戸建住宅
敷地面積:656.1㎡
建築面積:240.05㎡
延床面積:189.69㎡
構造:木造 2F 一部RC造
2007年度栃木県マロニエ建築受賞